かつてM&Aは欧米を中心とした海外で活発に行われる経営戦略でしたが、今や国内でも、それも企業の規模に関係なく行われるようになってきました。 M&Aは、相手企業があってのことなので、100%うまくいくものではありません。ただ、ポイントに注意して準備と交渉を進めれば、その確率を少しずつ高めていくことが可能です。
得意分野を中心に探す
M&Aの成功のための基礎になると言えるポイントです。M&Aの目的は企業により様々ですが、基本的に、自社が未経験・弱点である分野の企業の買収は避けておくのが無難です。知識、技術を含めたノウハウ、情報がなければ、それだけ成功は難しくなります。
ただし、たとえ未経験・弱点の分野であっても、下準備をしっかりと行い、情報網を確保し、綿密な計画を立てれば、無謀とは言い切れません。実際に事業を多角化していくことで成功を収めた企業も数多く存在します。また、既存事業の周辺分野の企業の買収であれば、低リスクでの進出が可能性です。
自社にフィットする仲介会社を選ぶ
現在、M&Aを検討している企業のほとんどは、仲介会社を利用します。 自力でのM&Aももちろん可能ですが、「知らなかった」「考えていなかった」ことによる損失を防ぐためには有効な手段です。
また、相手企業を探すところから契約の締結、アフターフォローまでを依頼できますので、自社内での時間・手間を大幅に省略することができます。双方の利益となる契約のためにも、仲介会社の利用は得策と言えるでしょう。 仲介会社を選ぶときには、以下のポイントに注目してみてください。
1.料金体系
成約時に初めて料金が発生する完全成功報酬型タイプ、着手金や中間金といった成功報酬以外の料金が発生するタイプ、月額での費用が必要になるタイプ、とその料金体系は仲介会社によって大きく異なります。どれが良いかを考えるよりも、実際に相談してみて、このサービスでこの支払い方なら納得、と思える会社を選びましょう。 曖昧な回答しか得られない場合には利用を取りやめるのが賢明でしょう。
2.サービス内容
いつからいつまでのサービスであり、また各ステップでどこまでサポートしてくれるのかを確認しておきましょう。
3.頼れる会社か
仲介会社は、売り手と買い手の仲介者です。料金が異様に高いのにサービス内容が曖昧、話をきいてくれない、相手企業を悪く言うなど、信頼のおけない仲介会社は避けましょう。 また、顧客情報の取扱い、秘密保持契約の内容にも注意して、情報をきちんと管理・保護してくれる会社かどうかを見極めましょう。
4.情報網が構築されているか
M&Aでは、仲介会社が独自に持つネットワークが十分な大きさを持っていることが重要です。特に探している相手企業の分野の動向に詳しいかどうかは、確認しておく方が良いでしょう。
5.スピードがあるか
M&Aでは、仲介会社が独自に持つネットワークが十分な大きさを持っていることが重要です。特に探している相手企業の分野の動向に詳しいかどうかは、確認しておく方が良いでしょう。
6.アクセスが良好か
これは必ずしも必要なポイントとは言えませんが、すぐに立ち寄れる、また来てもらえることに越したことはありません。
積極的に候補企業を探す
仲介会社を利用する中で、経営者は自身でも積極的に候補となる企業を探すべきだと言えます。仲介会社は求められている企業を探すプロですので、任せておけば結果を出しますが、少しでも可能性を広げるという意味では、やっておくに越したことはありません。 経営者自ら気になった企業があれば、仲介会社に依頼して、より詳しく調べてもらうことも可能です。
買収後を意識した計画を立てる
M&Aの成約後は、ついホッとして気を抜いてしまいます。しかし実際は、ここからが重要です。 成約後、売り手側も買い手側も、これまでの状況が大きく変わります。以前と同じように経営していては、ただくっついただけの関係に終わり、そこから生まれるものがありません。システムの違いから余計な支出・手間が続発し、効率が悪くなり、経営に悪影響を及ぼすでしょう。 成約以前から、成約後の経営を意識した準備を始める必要があります。
1.従業員への告知
いくら前向きな売却であっても、たとえばある朝突然告知されてそれで終わり、という伝え方では、従業員は不安を抱きます。新しい経営者はどんな人なのか、仕事は続けられるのか、会社が危ないのではないか――。経営者は、従業員に不安を抱かせる可能性がある、ということを踏まえて、タイミングを見計らって告知する必要があります。 買い手側企業においても同様です。自社が正しい方向に進んでいるということを改めて従業員に伝え、安心して業務を行える環境作りに努めましょう。
2.異なる企業文化を融合させる
従業員が早く新しい環境に慣れ、落ち着いて各業務に取り組めるよう、文化の融合への取り組みは早期に開始しましょう。 新しいルールを作ったり部署を整備したりすることで、社内を早く落ち着かせ、本業へと集中させます。
3.組織モデルの整備
事業の内容や労働環境の変化に合わせて、組織モデルを見直しましょう。企業全体が、効率良く動き始めます。
4.必要なものを統合する
技術、設備、社内のルールなど、必要に応じて統合に取り組みましょう。ただし、全てを統合することで効率が落ちたり、従業員の反発を招くこともありますので、その見極めが重要です。
5.顧客・取引先への告知
従業員と同じように、顧客や取引先も、M&Aの関係者と認識しておきましょう。直接の告知がなく第三者から初めてきいた、ということになれば不信感を抱かれかねません。 タイミングを選んで告知する必要があります。
デューデリジェンスに時間とコストをかける
デューデリジェンスとは、買収後に想定されるリスクへの対策のため、相手企業の事業内容・財務状況を詳細に調査することです。また、成約後のシナジー効果の予想にも役立ちます。M&A成約後のリスクを最小化させておくためにも、買収前に行う必要があります。 デューデリジェンスの結果によっては、契約を結ばないという選択も考えられます。最終的に良い結果を得るためにも、時間をかけて慎重に進めることが大切です。 またその実施のタイミングも重要で、早すぎると従業員の不安を煽る可能性が高まり、遅すぎるとリスクヘッジの効果・シナジー効果が薄れる可能性が高まります。 デューデリジェンスは、主に以下のようなものがあります。全ての項目について実施するというよりも、必要なものを選択して実施するのが一般的です。
1.ビジネスデューデリジェンス
対象企業の市場の調査を行います。
2.財務デューデリジェンス
対象企業の財務状況からの企業価値の調査を行います。
3.法務デューデリジェンス
対象企業の契約・取引が法律の範囲内で適正に行われているかの調査を行います。
4.人事デューデリジェンス
対象企業の人事・労務の状態の調査を行います。
5.税務デューデリジェンス
課せられた税金を対象企業が適正に申告納税しているかの調査を行います。
6.ITデューデリジェンス
対象企業買収後の、管理システムの統合方法についての調査を行います。
経営者同士の相性も重視する
売り手側・買い手側の経営者同士の相性も、M&Aを成功させるための重要な要素です。 M&A成約後は、両者が協力して経営を進めていきます。 買い手側の立場が上、と考えるのは危険です。あくまで契約は対等の立場で結ばれるものであることを忘れてはなりません。
経営者同士の相性が悪ければ、成約後もコミュニケーションが不十分になり、本来であれば問題なく成功したであろう事業が失敗することもあります。 売り手・買い手関係なく、相手を理解しようとする心を持って交渉を進めることが大切です。
売り手の既存経営を尊重する
買収後、売り手側企業内の環境・方針・システムを全て変える必要はありません。あまりに非効率であったり不満の声が出ている場合には統合も検討しますが、過度の介入は従業員のモチベーションを低下させるおそれがあります。売り手企業の従業員は、買収されたのだから仕方ない、という悲観的な考えを抱きがちで、これは人材の流出にもつながりかねません。 売り手側・買い手側関係なく、企業には理念があります。また一人一人の従業員も、誇りを持って働いています。
たとえ経営難で売却された企業であっても、既存の経営を一定以上、買い手側は尊重する必要があります。 もし経営への深い介入が必要であると予想される場合には、そもそもその企業は買収に適していないのでは、と一度考えてみてください。深い介入が必要ということは、それだけ自社との違いが多い、ということでもあります。
「成約後、あまり関与する必要がない」という基準も、売り手企業を探すときの目安の一つになると言えます。
コストを抑え、低リスクで地道に
買い手側は、M&Aにコストを費やして売り手企業を買収します。成約後の失敗によるダメージは、一般的に費やしたコストに比例します。 M&A市場での価値の低い企業であっても、自社(買い手)から見た価値は高いというケースが存在します。他者が見逃している技術を持っている、出店したい場所に土地を持っているといったことがあれば、「良いものを、安く買う」ことが可能です。
こういった企業を見つけて、低リスクで買収を進めていくことも、M&Aを成功させるための要素の一つです。 企業価値の高い企業は注目を集めますが、その数字よりも注目すべき点があります。売り手側に何を求めているかを明確にし、自社にとって本当の成功をもたらすM&Aを目指しましょう。
規模が大きい場合はM&Aアドバイザーを利用する
売却価格が10億円を超えるような大規模な買収を検討している場合には、M&Aアドバイザーに依頼するのも一つです。 高い企業を買収する、ということはそれだけ大きなリスクを抱えるということです。より自社に優位な条件での契約を結ぶ必要があります。
売り手側・買い手側のアドバイザー同士が交渉を進めますので、多くの要望を忌憚なく伝えることもできます。
情報の更新・タイミングも意識する
買収予定の企業が小規模である場合、短期間で財務状況が悪化することがあります。 デューデリジェンスから長い時間を置いて成約したM&Aでは、デューデリジェンスを基に作成した成約後の計画を上手く進められない可能性が高くなります。
自身で、そして仲介会社から得た情報は、随時確認・更新していく必要があります。そして成約のタイミングは元より、デューデリジェンスの実施のタイミングにも注意しなければなりません。
統合業務を積極的に、短期間で済ませる
M&A成約後、買い手側企業にとっての当面の課題の一つに、統合業務があります。二社間のさまざまな差異を解消し、スムーズに経営ができるように環境・システムを整備します。買い手側の過度の介入は、ときに売り手側の従業員の反発を招きます。ただし、経営上欠かせない統合は、従業員に理解してもらうことに努めながら、やはり進めていかなければなりません。
さらに懸念すべきは、統合業務を後回しにすることです。二社間の差異が埋まらないまま時間が経つと、それだけ損失も大きくなります。いざ統合業務を開始したときには、すでに従業員がその曖昧な環境に慣れてしまっていて、さらなる混乱を招くことにもなりかねません。
統合業務は、成約後できるだけ早く、社内にある程度の緊張感が残っている段階で、短期間で済ませるべきでしょう。
経営者自らが積極的に、また優秀な社員に統合業務チームを作らせるなどして、成約後は速やかに統合を進めていきましょう。そのためにも、成約前から成約後の計画を立てておくことが大切です。